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おじいちゃんの思い出 [その他]

夏休みに入ると、毎日のように姉と海に泳ぎに行った。
国道沿いの階段を降りると海水浴場だ。家から子供でも歩いていける場所。
遊泳場所は、オレンジのブイで囲まれていて岸から20mぐらい先の沖に
飛び込み台が2つ。監視櫓には保護者が数人。


水眼をつけ飛び込み台まで泳ぎ、海中にいる瑠璃色の魚や
黄色と黒の縞模様の魚を見つけては喜んでいた。
海藻もぷかぷか浮かんできたりして、海藻のプチプチした気泡をつぶすのも面白かった。
潜ると海水の温度が急に冷たくなる場所があり、海底の土は冷たかった。
海の中から見上げる太陽の光のキレイな事も知った。
お腹が空こうが、いつまでも遊んでいた。

いつものように遊んでいると姉が「帰ろう」と真剣な顔で言う。
「お祖父ちゃんが迎えに来てるから」姉の視線の先は
国道から私達をを見下ろしてるお祖父ちゃんの麦藁帽子だった。
手を振るわけでもなく、ただお祖父ちゃんは立っていた。

急いで岸に戻り、冷たいシャワーを浴び、階段を上るともうお祖父ちゃんは先を歩いてた。
つぶれたガソリンスタンドの裏にある崖の上の桑の実。
姉と私の秘密の場所、秘密のおやつは今日は無しなんだなぁと
横目でガソリンスタンドをちらりと見る。
先を歩いてたお祖父ちゃんは立ち止って、こっちを見てるので、慌ててまた後を追う。
いつも寄る駄菓子屋さんの前に来た時も、お祖父ちゃんは立ち止って見てる。
あの秘密の桑の実のことも駄菓子屋さんに寄ってたことも知ってたんだ。

家に帰ると、一足先についたお祖父ちゃんは何事もなかったように煙草をふかしてた。
お祖母ちゃんが「お風呂入りな」と。お風呂からあがると茹でたてのトウモロコシがあった。
おやつは、天草から作った心太(トコロテン)の時もあった。
後で聞いたら、お祖父ちゃんがお風呂の準備してから、私達を迎えに行ったそうだ。
このことを知ってると悟られないようにとお祖母ちゃんに言われた。

その日からお祖父ちゃんの麦藁帽子が見えると
どんなに楽しくても帰ることになった。気が付かない振りはできなかった。
秘密の桑の実は、行きに食べることにした。
一緒に並んで帰ることはなく、いつも先を歩いてたお祖父ちゃん。
背中は「散歩してたら、偶然お前達が見えたから」と言ってるようだった。
泳いではいけない、お盆から後や(海月が出るので、行ってはいけないと言われてた)
赤潮が出た時も、家に私達がいないと海水浴場まで行って探してたんだろうな。
海を知ってる男の言うことを私達が聞かない筈はないのに。

冬にマラソン大会があった。
姉は早く起きて練習していた。暗くて怖いので付き合うようにと、私も自転車で数回。
何せ、冬の朝、私は眠くて三日坊主。
マラソン大会のことは、何も聞かないし頑張れよとも言わなかったお祖父ちゃん。

大会当日、友達が「あぁちゃんのお祖父ちゃんがいる」と教えてくれた。
興味があるそぶりも見せなかったお祖父ちゃんが道路を挟んだ先にいた。
「おじぃちゃ~ん」と手を振る私に眼だけで返事。
姉が走ってくると、大声で応援する私、お祖父ちゃんは真剣な顔で応援していた。
声も出さずに。
家に帰ると、また何事もなかったように胡坐をかいて満足そうに酒盗の塩辛で晩酌していた。
姉は、私よりお祖父ちゃんの応援は分かったそうだ。

愛とか愛情ということを考える時、いつもこの麦藁帽子とマラソン大会のことが浮かぶ。

    
今日のように満月の夜、お祖父ちゃんがお月見に行こうと誘ってくれ
行ったのは家から歩いてすぐの家。
そこの家には、庭に手作りの木のお風呂があった。
お祖父ちゃんとお風呂に入ると、湯船に月が浮かんでいた。
湯船の月を掬おうとする私を、笑って見てたお祖父ちゃん。
お祖父ちゃんが掬うと、手の中に揺ら揺らとお月さまが浮かんでた。

前腕に入れ墨をしてたお祖父ちゃん。それは乗ってた船の名前とお祖父ちゃんの名前。
船が遭難した時、最悪の場合誰か分かるように。
前腕だけはキレイな状態で見つかる確率が高いそうだ。鮫に食べられたりすることもなく。
腕だけが帰ってくるようなことがありませんようにと
一緒にお風呂に入り、入れ墨を見ると思ったものだ。
温泉施設などで「入れ墨お断り」を見ると、お祖父ちゃんも入れないのだろうかと思う。
もう亡くなっているのに。

お祖父ちゃんが亡くなったのは9月。
最後に食べたのは大好きな葡萄だったね。
お祖父ちゃんの一番好きな花、かすみ草を姉ちゃんが飾ってくれたんだよ。
もう随分と時は過ぎたのに、ふとした拍子に寂しくて切なくなる秋。


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コメント 8

子供の頃の思い出って、いくつになっても懐かしく
思い出しますね。無口だったから尚更、心に残るのかも。
優しさがしみじみと伝わってきます。
私の生まれた時には既に祖父はこの世に居ませんでした。
by (2007-09-27 19:10) 

あぁ

とわさん
ありがとうございます。
何かを買って貰ったとか、おねだりした記憶はないのですが
たくさんの愛情を貰いました。
by あぁ (2007-09-27 22:32) 

niceっていいのかな、、、っておもったですが、
私、そういうあったかい家族のきおくがないから
読みながら涙が出てきました。
とてもとてもすてきですね。
そうして、いまも残っている記憶の中に、
おじいちゃんがいるのですね。
本当にすてき。
ほんとうにすてき。
by (2007-09-27 23:14) 

あぁ

ゆえさん
ありがとうございます。
なるべく感情を抑えて書きました。
何で秋になると寂しいのか、やっと分かったの。
暖かいコメント感謝します。
涙もろくなってる秋です。
by あぁ (2007-09-28 00:05) 

mikanpanda

おじいさんの思い出、とてもすてきです。
言葉は少なくとも、愛情は伝わるものなのですね。
私は核家族で育ったし、母方の祖父は私が生まれたときには他界したあとだったので、祖父との思い出は残念ながらなくて…。
歩いて海に泳ぎに行ける環境というのもうらやましいです。
by mikanpanda (2007-09-28 11:46) 

あぁ

mikanpandaさん
ありがとうございます。
今思えば、良い環境で育ったと思います。
その環境のおかげか、父方も母方も祖父母は長生きでした。
身内でお葬式があったのは、祖父が初めてでした。
今、その海はダイビングスポットにもなってますが
素潜りしかできない私は、ちょっと寂しいです。
by あぁ (2007-09-29 02:01) 

ちぃ

いつまでも心の中に生き続けるおじいちゃん、きっと今もお二人を見守ってくれてるのかも・・。すてきなお話ありがとうございます(^-^)
by ちぃ (2007-10-03 23:10) 

あぁ

ちぃちゃんさん
あの思い出だけで、乗り越えられることがあります。
叱られもしましたが、押し付けがましい偽物の愛情より
不器用な愛情が、今でも私を暖かく守ってくれます。
こちらこそ、ありがとうございます(*^・^*)
by あぁ (2007-10-04 09:20) 

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